「痛っ」

バサバサと音を立てて床一面に広がった資料。
順番を整理したのに、それは一瞬のうちで水の泡となる。

散らかったその場所をは一人で眺め、ため息を吐く。
脈を打つように、切れた人差し指からは血が滲んできていた。



「よりによって利き手の指を怪我するなんて」

止血するなんて大袈裟過ぎるが、紙につくのは困る。

「ふぅ・・」

ちょこんとしゃがみこむ
切れた方の手を挙手するように上へとあげながら拾い始めるが、
不慣れな反対の手では中々思うように進まなかった。

とりあえずドアの前に落ちているのだけは早く拾わないと。
もし誰かが開けたらぐちゃぐちゃになって―



ガチャリ。



「―っあ・・・!!」



ぐちゃぐちゃに・・・・―なってしまった。。。








selfish










「悪かった」

「・・・・もういいです」



「遅いぞ」と怒鳴りながら入り口を開け放ったのはウォースラだった。
時間に間に合わなくなってしまうかもしれないのを悪化させたのは、その本人となりは反対に被害者となる。

「だが、お前にも責任はある」

「八つ当たりしてる」

「それは違うぞ」

「はぁ、、、もう、私が悪いって事でいいから。これを拾い終わるまでに説教は済ませて欲しいのだけど」

「おざなりな態度では叱ったところで効果がない」

「割合でいったらウォースラの方が悪いのに」

「発端はだ」

「確かに指を切った事に驚いて落とした私が悪いけれど、ノックもせずに入ってきたのは誰?」



痴話喧嘩をしながら二人そろって消失してしまった箇所を修正する。
まさかこの歳になって人から説教されることになろうとは想像もしていなかった。
いやこれは小言か。



「もういい。それより指の怪我を治せ。仕事がはかどらんだろ」

「大丈夫よ。怪我の心配してくれるのなら今度はこうならないように待っててくれるといいんだけど」

「―?」


椅子から立ち上がり書類をトントンと揃えながら、手の止まったウォースラを見る

「貴方の方がずっと大変なんだから。これくらいの事は任せて貰えない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」


真顔のまま反応を見せない相手に少しだけ苦笑いを浮かべる。

「まだ、貴方に信頼されてない証拠かな。認められるように頑張るわ」

「・・・どうしてそんな事を言うのか理解できんな」

「それが全てとは言わないけど少なからずはということ」

「信用出来ない奴を仲間にする程俺は人を信じてはいない」

「でもあの時は脅迫に近かったわ。なのに?」

「信じざるをえなかった」

「・・・でも仲間にしてくれた」

「お前がもし敵なら殿下は見つかる筈はない」


椅子から立ち上がったウォースラの視線が上からを見つめる。

「お前は十分やっている。だからこれ以上負荷をかけるつもりはない」

「・・・・・・・」

「それににばかり加担しては俺の采配が疑われるだろ」

「気にするのね、やっぱり」

「階級社会にいた人間は余計にそうだ。それに・・・・・・」

「“女”だからでしょう?気にしないで」

「これこそ差別なんだろうな。。。。。」

「私、今は逆に良かったと思ってる。情報収集してると女である方が有利な事もあるし」

「・・・・・・・・」


黙ったままのウォースラからは紙を取り上げ合本した。
彼とまた目があったが小さく微笑んでそれを受け流す。

「もうすぐ会議の時間」


まとめられた資料を差し出して、その部屋からでていこうとするが、扉の前で立ち止まった。






「ねぇ、知ってた?」


質問の意味すら分からず黙ったままのウォースラ。
はドアを開けながら一度こちらを振り返る。

「思ってる事が顔にでるって」

「・・・・・・・・」

「残念だけど貴方が想像したような事はしてないから。あしからず」


パタンと閉められた扉を見ていたウォースラは眉を顰め瞼を閉じた。

「・・・・・・・・・」

断じてそのつもりは無かった。
しかしそれでも何処かで考えてしまったんだろう・・・。
それが相手に悟られてしまったのだ。
彼女のお蔭で情報を手にすることが出来ている。
それをどのような手段で知り得ているのかは俺は知らない。
形振りなど構っていられない状況なのに俺は何処かでそれを女としての彼女を軽蔑した瞬間だった。


「勝手だな・・・俺は」


恩恵を受けそれがあってこそ成り立つ存在なのに裏側を知ったとたんに不条理だと非難する。
そんな言葉を受け流す事の出来る

見透かされた心が痛むのは彼女が笑顔で答えたからかもしれない・・・。